ビルの恋
二人で部屋を出て、エレベーターで1階に降りる。

土曜の早朝。
B.C.Square Tokyoのエントランスロビーには誰もおらず、静まり返っている。

「今日も、事務所に戻るの?」

「うん。昨日の夜早く出たから。メールが溜まってる」

「じゃあ、ビルの入口まででいいよ」

あと数十歩でお別れだ。

何か言いたい。
でも何を言ったらいいかわからない。
まだ好きな人と別れるのは、初めてだ。

伊坂君も黙ったままで、ビルの入口に着いた。

「じゃあ」

さようなら、と言おうとして伊坂君の顔を見ると、涙があふれた。
声がかすれ、あとの言葉が続かない。

伊坂君は、私を抱きしめた。

「バカで、ごめん」

「・・・うん」

伊坂君はずっと私を抱きしめていたが、やがて私は、自分から身体を離した。

伊坂君をロビーに残し、B.C.Square Tokyoを出る。

周辺の桜並木から、花びらがはらはらと舞い落ちている。

新緑の季節がやってくる。






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