明日も歌う あなたのために



「おっと、でも可愛そうなヤツとか思わないでね」


テーピングが終わって、彼が私の目を見てそう言った。


彼の察した通り、私は彼を可愛そうだと思ってしまっていたから、バツが悪くて目を逸らす。



「今は音楽にハマってるんだ。バスケよりずっとずっと向いてるみたい」



そう得意げに笑って、さっき読んでいた雑誌を顔の前にもってくる。

どうやら音楽雑誌だ。


「俺、高梨 湊。一組」


「わ、私は佐原 花瑠。二組だよ!」




こうして私達は思いがけず友達になった。



とは言え、クラスも違うからあまり接点もなくて、偶然会ったら少し話をしたり、目が会ったら手を振り合う程度。



後で知ったけれど、高梨は結構有名人で、心臓病のこともあるだろうけど、学年で高梨を知らない人は多分居ないし、

学年の8割の人は高梨の友達だと言っても過言ではないくらい、人当たりがよくて人を惹きつける魅力のある人だった。



彼がそんな有名人だから、皆の話から私だけが一方的に高梨をどんどん知っていく中、私たちは2年生になって同じクラスになった。


私はその時、これからは高梨にも私を知ってもらえると思って、嬉しかったんだ。



2年生になっても高梨の人気は相変わらずで、高梨は常に人に囲まれていた。

高梨が中心にいるおかげで、クラスはまとまっていたし、平和だった。


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