明日も歌う あなたのために


今思えば、あの時まで私は何も分かっていなかったのだろう。


普段の高梨は、明るくて、常に笑顔で。


病気だなんてこと、すっかり忘れてしまうほどにそれを感じさせなかった。



だけど違うよね。今なら分かる。




彼が運命に奪われてきたものは、バスケや好物だけじゃなかった。



普通の日常、当たり前の日々。


そうゆうものが一瞬にして奪われることがあるんだ。


さっきまでそこで笑っていた、なのに数十分後には生死の境をさ迷ってる。

そんなことが当たり前にあった。



その度に彼は苦笑いをして、大切なものを手放してきた。


彼は自分の置かれてる状況もよく理解せずに、へらへら笑っていたわけじゃない。


”どうして笑っていられるのだろう”なんて思ったこともあるけど、それは違うと今なら分かる。

笑っていないとやってられなかったんだと思う。



笑顔までも奪われてはいけない、と。


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