明日も歌う あなたのために



「………なぁ。本当に歌……諦めちまうのか…?」



何度も、何度も聞いたそのセリフ。


「もったいねーって、思ってくれただけで充分だよ」


「お前な………」


「もう言うなよ」


感情のない声で俺が言うと、
龍は言葉をぐっと呑んだ。


「──悪い……」


「いいよ、ごめん。
怒った訳じゃないから」


歌のこととなると、
俺はたまに冷静になれなくなる。


「俺、龍のことすごく応援してる」


嘘じゃない。
本当に心から応援してるんだ。



あれは小4の時だ。


『俺、いつか歌で食っていくんだ!』

『龍に出来るなら、俺にも出来る』



最初は、そんなくだらないきっかけで。
でも確かに俺たちは誓いあったんだ。
「二人で歌でテッペンとる」って。
周りには少しからかわれたが、
二人ならなにもかもが楽しかった。







───ごめんな、龍。
俺ひとり、裏切っちゃったな。







龍が帰ったあとの病室で、
俺はひとりベッドの上で蹲った。


胸が痛い。

たかが10分。
しかも病院だからいつもよりは控えめに
軽く歌っただけだ。


───こんなんでプロに、
なれるわけないだろ。


何よりも俺は、1年後、2年後、
そんな近い将来を生きていくのも
必死なんだから………………。


< 16 / 303 >

この作品をシェア

pagetop