明日も歌う あなたのために

「そう言えばお前さ、よくおばさんや洋兄にバンドのことバレてないよな」


龍が関心したようにそう言う。

おばさんとは、俺の母さんのこと。洋兄とは俺の兄ちゃん、洋(ヨウ)のことだ。


「部活に参加すること自体は反対されてないからね。でもライブ当日はどう言って外出しようかまだ考え中」


「おいおい、大丈夫かよ」




軽音部自体は反対されてないが、バンドを組んだりして本格的なライブにでたりするのは、俺の身体のことを考えて、母さんや兄ちゃんに禁止されてる。


だからこの一ヶ月と二週間の間、なんとかINFINITYのことは隠し通している。




「まぁ今は練習練習。スタジオ代がもったいないわよ」



パンパンと、俺たちをまとめるように花瑠が両手を叩く。



「なんだよ佐原、妙にやる気だな最近」



「当然でしょ?あんたたちはやる気ないわけ?」



「あるに決まってんだろーっ」




INFINITYの4人は案外相性がいいらしく、バンド内の空気はすごく良い。


それぞれが努力を惜しまないし、遠慮なくアドバイスし合うことが出来る。


バンド自体も仕上げに差し掛かり、本当にあとは俺が曲を完成させるだけになってきた。




「よしやるか!」




最近は特に皆やる気に満ちていて、3時間のスタジオの中で20回近く曲を通す。


すごい体力だ。



「俺ちょっとトイレ」


5分間という束の間の休憩の中、俺は違和感を感じて、出来るだけ笑顔でそう言って一旦スタジオを出る。




そうゆう時の俺の行動はワンパターン。わざわざ皆の居る1階を離れ、2階のトイレへ行き、個室の中へ入り、胃の中のものをすっかりそのまま吐き出してしまう。



最近はこうゆうことが多くなった。


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