明日も歌う あなたのために
「ねぇ…………、花菜って呼んでいい?」
”さん”ってすごい年上って感じで悔しい、と湊くんは付け足す。
私は、すきな人………つまり湊くんが年下だということを、別に嫌だと思ったことはない。
だけどやっぱり湊くんは男の子だから、彼女より8歳も年下なのは、やっぱり少し
コンプレックスに感じてしまうのかな。
「じゃあ私も、呼び方変える?湊くん、は子供っぽいかなぁ?」
「じゃあ、変えてみて」
「じゃあさ、龍平くんたちのマネで、
”ミナ”はどう?」
「──────やだ。女みたいだ」
私の胸に埋めた頬が、ぷくっと小さく膨らむ。
そんな仕草がかわいくて、ついそっと頭を撫でた。
「あー、また子供あつかい……」
「いいじゃない、好きなんだもん」
「………もー…………」
そう呆れたようにわざとらしいため息をつくと、
ぷしゅーっと空気が抜けた風船のように、湊くんの身体がふわりと揺れて、反射的に抱きしめて支えた。
「おっと………。湊くん?どうしたの?」
───返事がない。
心配になって、俯いた顔を覗き込む。
すると湊くんは力なく笑った。
「なんか一気に眠くなった……………」
「ふふ、ずっと眠ってたのにね」
「そんなにずっと……?」
「うん。丸一日以上。でもまだ夜中の2時だもん。もう一度眠ったら?」
そう私が言うと、湊くんは俯いて静かに首を横に振った。
「────眠れない……」
「どうして?」
「──……ちょっと、怖い」
そう苦笑いする湊くんを見て、私はあの日屋上で聞いた言葉を思い出した。
『本当は不安なんだ。
毎晩、このまま眠ってそのまま死んだら
どうしようとか考えて……』
─────湊くん…………ずっと不安だったんだよね。
「大丈夫よ…寝付くまで傍に居るわ」
抱きとめた湊くんの身体を再び横に寝かせて、そう笑って見せると、湊くんは潤んだ瞳で私へ手を伸ばす。
「───手……離さないで」
そう可愛らしくねだられ、自然と頬を綻ばせながら、不安に揺れるその少し小さな手を包み込むように握った。
ネームバンドが付けられた少しごつごつした細い腕から、人より少し弱い彼の脈の動きが、痛い程に伝わった。
「おやすみなさい…湊くん」
もうすっかり眠ってしまった湊くんの額に、そっと唇を落とした。