明日も歌う あなたのために
「悪い、花瑠。ちょっとだけ手貸してくれる?」
「えっ?」
「手、貸して」
そう言って高梨が手を差し伸ばしてきたので、私は戸惑いながらも文字通り手を貸そうと高梨の手を取る。
たったそれだけで、心臓がドキドキ言い始めた。
「じゃ、ごめんね重いかも」
高梨はそう短く告げて、掴んだ私の手にぐっと力を込めて、勢いよく立ち上がった。
そこでやっと、高梨が立ち上がるのに私を支えにしたのだと理解した。
だけど納得してる暇なんてなく、勢いよく立ち上がった高梨の身体は、ふらりと不安定に揺らぐ。
「え、わ!ちょっ……!」
慌てた私は、取り敢えず高梨を転ばせまいと、抱き寄せるようにその細身の身体を支えた。
ふんわりと漂う、高梨の香り。
柔らかい、焦げ茶色の髪が首筋に当たってくすぐったい。
…………時が止まったように思えた。
「うわ………ごめんね…花瑠」
耳もとで囁く高梨の声に、フッと現実に引き戻された気がした。
「だ、大丈夫、高梨?フラッとした?」
「うんちょっとだけね。久しぶりだから」
そう言って苦笑いした高梨は、いつのまにか私の手を離していて、さっきの衝撃で肩からずり落ちたカーディガンを直していた。