明日も歌う あなたのために

代わりに二人は楽しそうに
お互いの歌を褒めあって笑って、
私はちょっと悪いな、と思いながらも
病室の前で会話を聞いていた。



「………なぁ。本当に歌……諦めちまうのか…?」


ふと、そんな言葉が聴こえた。


「もったいねーって、思ってくれただけで充分だよ」

湊くんがそう返した。


───歌………?諦める………って…?



あの時のことを思い出した。


将来は、なんでもいいから音楽に関わっていたいと語っていた、あの時。





『本当にやりたかったことは、自分の胸に仕舞ったよ』





湊くんはそう言ったんだ。


───だったら、”本当にやりたかったこと”
って…………。




湊くんの友達が帰って行ったのを
325室の見える場所から
確認してから、
私は湊くんの病室を訪れた。


特に用なんてない。

なのに私はノックも忘れて、
躊躇なく病室に入ってしまった。


< 22 / 303 >

この作品をシェア

pagetop