明日も歌う あなたのために
代わりに二人は楽しそうに
お互いの歌を褒めあって笑って、
私はちょっと悪いな、と思いながらも
病室の前で会話を聞いていた。
「………なぁ。本当に歌……諦めちまうのか…?」
ふと、そんな言葉が聴こえた。
「もったいねーって、思ってくれただけで充分だよ」
湊くんがそう返した。
───歌………?諦める………って…?
あの時のことを思い出した。
将来は、なんでもいいから音楽に関わっていたいと語っていた、あの時。
『本当にやりたかったことは、自分の胸に仕舞ったよ』
湊くんはそう言ったんだ。
───だったら、”本当にやりたかったこと”
って…………。
湊くんの友達が帰って行ったのを
325室の見える場所から
確認してから、
私は湊くんの病室を訪れた。
特に用なんてない。
なのに私はノックも忘れて、
躊躇なく病室に入ってしまった。