明日も歌う あなたのために
私の方向音痴はおねーちゃんも知っているので、私が首を横に振ると、「だよね〜」と苦笑いした。
すると高梨がスッと手を挙げた。
「俺分かるよ。花瑠、一緒に行こっか」
「────え、でも………高梨…」
「駄目よ!湊くん昨晩から熱あったじゃない。それにまだフラフラしてるでしょ?」
心配だよ、と言おうとしていたのを遮られ、おねーちゃんに先を越されてしまった。
「別に大丈夫だよ微熱じゃん」
「私が代わりに行くわよ」
「花菜……じゃなくて…佐原さんは仕事中だろー??」
また私だけを置いて、2人だけで言い合いをし始めた。
見せつけられているようでなんだかイライラして、別に1人で行くから、と言おうとした時。
「佐原さ〜ん、325号室の添野さんが呼んでます」
廊下の奥からそう叫びながら手を振っている見知らぬ看護師さん。
それを見た高梨は、ニッと勝利の笑みを浮かべた。
「ほらね、”佐原さん”。仕事仕事!」
「~〜あーっもう!分かったわ、分かったけど行くなら車椅子だからね!」
「えーーーっ」
「えー、じゃない!ほら病室から持ってきてあげるからちゃんと待ってるんだよ?」
「────ちぇっ」
高梨が私の横でぶちぶちと文句を言っている内に、おねーちゃんは高梨の病室に畳んであった車椅子を持ってきて、点滴を背もたれの裏にあるポールに移した。
そして「夕食までには戻ってきてね」と、まるでお母さんのように言うと、いそいそと呼ばれた病室へと走っていった。