明日も歌う あなたのために


黙り込んでしまった。



驚いた、なんてもんじゃない。


今でも言葉の意味が上手く理解できない。


──いや、したくないんだ。






「飯田は知ってるの……?」




「うん。あいつにはその日のうちにラインで」




飯田は、知っていて何故私には言わなかったのだろう。





「だけど花瑠には、ちゃんと顔みて言いたかったからさ。タイミング見計らってたらグズグズしちゃって」




「どうして……?」





「花瑠は、花菜の大切な妹だし、俺の大切な友だちでもあるから。花瑠が居なかったら俺、花菜に想いを伝えられていなかったかもしれない」




─────”友だち”

そんな素敵な言葉に、どうしてこんなに胸が痛むんだろう。


どうしてこんなに………涙が零れそうになるんだろう……。





「……………花瑠、どうした?」




必死に涙を堪えた。


だけど、高梨は気付いてしまって、心配そうに私の顔を覗き込む。







「────よかったね……高梨」






声が震えないように、やっと絞り出した一言だった。



ぎこちなく笑顔を浮かべてみるけれど、口角が震える。


うまく、笑えないや。






「嬉しすぎて、泣きそう…。よかったね、よかったね高梨…」




無理矢理に嘘をついた。


高梨に気づかれたくはない。

私の、実らない想いに。




「花瑠……ありがと。泣かないで?」





高梨は気付いてしまったのか否か、そっと優しく微笑んで、自分のポケットから取り出したハンドタオルを私に差し出した。




「花瑠のことも応援してる」



「え……………?」



「絶対奪われたくない人が居る、って前に言ってたでしょ?」




ああ、そう言えば、前にそんな話をした。


──────高梨のことだよ。




もし今、そう言ってしまえたなら、高梨は少しでも私を意識してくれるだろうか。



驚く?困るかな?


それとも、いつもみたいに柔らかく微笑んで「ありがと。でも……」って、優しく突き放すかな。






───どっちにしたって、私には言えない。


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