明日も歌う あなたのために

湊くんは少し驚いたけれど、
いつもの笑顔で冗談を言ったりしていた。


だけど、私が
歌のことに話を振ると、
その表情は途端に曇ってしまった。



「そんな目で見るなよ」



いつもは優しい湊くんが、
その透き通る声が、笑顔が、
全部隠れてしまったみたいに
私にそう言った。

胸が、針を刺されたみたいに
チクリと痛んだ。




───私、なんてことを言ってしまったんだろう。



拡張型心筋症の湊くん。
どう考えても歌手になるには
負担すぎる。

それどこか、数年先を生きるのだって
大変なことなんだから。


でもそんなこと、湊くんだって
分かってるのに…………。




踏み込みすぎたんだ。


私はあの時、用もないのに湊くんの
病室を訪れて、何をしようとした…?

病気のせいで夢を諦めなくちゃいけない
湊くんを、慰めてあげたかったの?




あろうことか、湊くんの切ない悲しみに
寄り添おうとしたんだ。

それで結局、湊くんを傷付け、
怒らせてしまった。


あの時の私は、"看護師"じゃなかった。






────あまり踏み込みすぎないようにしないと。湊くんは大切な患者の一人なんだから…………。




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