明日も歌う あなたのために
湊くんとは、最低限の線引きを
しようと決めてから三日。
何事もなく毎日は過ぎていった。
「ただいまー」
一人暮らしだけど、寂しいから
いつもなんとなくそう言う。
病院の近くに建った看護師寮。
私はそこで2年一人暮らししている。
だけど今日は、鍵が開いていたし、
リビングに灯りが点いていた。
「おねーちゃん!久しぶり!」
玄関へひょっこり顔を出した、
黒髪のポニーテール。
───やっぱり。
合鍵を使えるのは
両親の他には彼女しかいない。
妹の花瑠(ハル)だ。
「シチュー作ってまってたの!」
「なにそれ〜。超いいお嫁さんみたい」
仕事で疲れた心に、
花瑠の優しさが染みるようだ。
「花瑠、調理科のある高校
目指してるんだってね?」
花瑠は昔から料理が好きだ。
"好きこそものの上手なれ"とは、
まさにこのことで。
初めは私に料理を教わっていたくせに、
今では私の作れない料理を
簡単に作ってしまう。
このシチューも、私が作るシチューの倍は美味しい。
「うんそうなの。
つってもまだ中二だから、
具体的なことは決まってないけど」
──中二……中二かぁ……。
ふと、湊くんの顔が浮かんだ。
──湊くんも中二だったよね………。
覚えてる。
入退院繰り返していて
まともに学校に通えていない湊くんに
「学校の授業はどう?」なんて無神経にも
聞いてしまったことがあった。