明日も歌う あなたのために
「あの、やめてもらえません?私、前言った人とお付き合いすることになったので」
出来るだけキツく、言ったつもりだった。
だけど添野さんは一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、すぐにいつもの余裕な笑みを浮かべた。
「ああ……例の”湊くん”やろ?」
────名前まで覚えてる…………。
「ヤツ、また入院してはるんやろ?」
「なんでその事…………」
「ウロウロしてたら たまたまネームプレート見たんや。ナースステーション近くの個室やろ?」
「…………………」
「顔見てやろう思うたけど、病室から全然出て来いひんのな、ヤツ」
それはそうだ。
湊くんはあの個室で、苦しみながらも懸命に病気と闘ってる。
適当に理由をつけて余計に病院に居座ろうとする添野さんとは違うんだから。
「そんなに悪いん?ヤツ」
「──────さっきからその、湊くんを”ヤツ”って呼ぶの、やめてもらえません?」
「─────なんや、話逸らすなや」
「──他の患者さんについて、私から話せることはないので」
「ふーん…………。ま、ええ」
添野さんはわざとらしく大きなため息を吐いて、シーツのくしゃくしゃになったベッドの上へふんぞり返って座った。
────今朝、綺麗にベッドメイクしたばかりなのに………。