明日も歌う あなたのために



───だけど、余裕でいられたのは、それまでで……、




「そんなん同情やろ。口では何とでも言える。お前が死んじまえば後はハナちゃんも自由やからな。いっそ早く死ねと思っとるんやないか?」




ニヤニヤ、さっきから変わらないその不敵な笑み。



だんだんと俺の心を挑発する。




「──────花菜がそんな風にに思うはずはない」






「残してい逝く方は気楽なもんやなぁ?悲劇の主人公気取って、最後まで目一杯愛されてりゃいいんやろ?」




「──────違う」





悲劇の主人公なんかじゃない、花菜を残して死んだりしない。

花菜は俺の傷を舐めるために傍に居てくれるんじゃない。






「ハナちゃんだってそうや。結局、悲劇の少年に寄り添う健気な自分に、酔っとるだけや。あの女がほんまに愛しとるのは、自分だけや」








「─────黙れ…っ!!!」







バシンッと鋭い音を立てて、ノートを床に叩きつけた。




今まで感じた事の無いような強い怒りが込み上げてきて、身体が震える。





「お前なんかが………お前なんかが、分かったみたいな口利くなっ!!!」






下手したら部屋の外にまで響くような大声だったと思う。


だけど俺には、自分の心臓の音でほとんど聞こえていなかった。




一気に心拍数が上がったのが自分でも痛いほどに分かって、


共鳴したようにモニター心電図の異常アラームが鳴り響く。







耳を塞ぎたくなるようなその音も、どこか遠くで鳴っているように聞こえた。











< 263 / 303 >

この作品をシェア

pagetop