明日も歌う あなたのために


花瑠は慌てて携帯を
ポケットから取り出して、
画像フォルダを漁り始めた。


「私、前の病院に
お見舞いに行ったことあるはず……
───あ、あった!ほらっ」


そう言って花瑠が私に見せてきたのは、
見慣れない病院のベッドで横になり、
花瑠を始め10人くらいの
クラスメートらしき人たちに
囲まれて笑う、湊くんが写っていた。


───花瑠と同じ中学だったなんて……。


「花瑠、仲良かったの?」

「まぁまぁね。てゆーか高梨は
皆と仲良しだったから」


「皆と仲良し?」


「クラスの中心ってゆーかね。
休みがちだけど………クラス内でなにか
決めなきゃいけないこととかは、
高梨にLINEで意見を聞いたり、
"高梨だったらこうする"って
決めたりする感じかな」


───慕われてるんだ………湊くん。


私は何故だか自分の事のように
嬉しくてつい笑を零した。


そんな私を見て、
花瑠はニヤリと笑った。



「へー、おねーちゃんてば
高梨のことすっごく
気に掛けてるんだね?」


「そりゃあ……担当の患者さんだからね」


「本当にそれだけ?」



───"それだけ"?

湊くんは私の大切な患者さんのひとり。

特別に気にかけてしまうのは、
私が他に担当してる患者さんの中でも
体調の起伏が激しかったり、
症状が重いせい。

若いのに、病気のせいで
夢を諦めてしまった湊くんが
可愛そうだと思ったから。



───本当に…………それだけ?


私が思わず考え込むと、
花瑠は相変わらずに
ニヤニヤしたまま言った。


「今度、友達と
高梨のお見舞いに行こーかなぁ
高梨の方にそうゆう気はあるのか、
知りたいし」


───"そうゆう気"…………?

そうゆうってどうゆう?
"そうゆう気"ってなんのこと?






結局その日 花瑠は、
私に数々の謎を残したまま、
帰って行ってしまった…………。

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