明日も歌う あなたのために
翌日の昼、入院中お風呂に入れない日に
使う体を拭くタオルを渡しに湊くんの部屋を訪れると、湊くんは見舞い患者用の椅子に座って雑誌を読んでいた。
「湊くん、寝てなくていいの?」
私に気付いた湊くんは、
昨日と同じ笑顔で笑った。
「寝てるとこの辺痛くなるんです」
そう言って自分のみぞおちの辺りに触れた。
「今は?痛くない?
息ぐるしいとかある?」
「ちょっとだけ」
「咳とか、痰とかはないかな?」
「それは大丈夫です」
湊くんの病気は「拡張型心筋症」
特発性で起きる心疾患の一つで、
日本では指定難病。
うちは有名な循環器科の先生がいるから湊くんは病院を移ったんだと思う。
湊くんの場合、診断されて3年が経っている。5年生存率が54%と言われている病気だから、けっこう症状は進んでるはずだし、突然死だって有り得る。
──身体も、精神も、
本当はもっと辛いはずなのに………。
「────それ、音楽雑誌……だよね?」
少し気を紛らわせようと、湊くんの読んでいる雑誌に話題を移した。
「あ、はい。ここの売店では売ってないから、友達に買ってきてもらうんです」
「そうなんだぁー。ねね、音楽雑誌ってどんなことが載ってるの?」
「最近キテるバンドとか、ライブ情報とか、楽器のこととか」
「へー、音楽好きなんだ?」
「はい、将来はなんでもいいから音楽に関わっていたいなぁって……」
───将来、か…………。
完治には心臓移植。
そのことは湊くんだって
よく分かってるはずだ。
湊くんの主治医の滝野先生は、
過去に心臓移植に成功したことで有名だ。ドナーが見つかり次第、
移植手術をするってことは
ちゃんと聞かされているだろうし、
そのためにここへ来たと言っても
過言じゃない。