明日も歌う あなたのために
「違うわ。今のは看護師の私が言ったんじゃない。ひとりの人としての花菜が言ったんだよ………」
湊くんは私の背に回していた腕を緩め、顔を上げて、泣き腫らしたその目で私の目をまっすぐに見て言った。
「じゃあこれは……………看護師の佐原さんじゃなくて……その"花菜"に言うんだけど…」
花菜、と名前を呼ばれて
何故だかどくん、と胸が鳴った。
「俺、もう少し頑張ってみれるかなって思う。可能性は……そりゃもう低いかもしれないけど」
その大きな瞳の奥に映る未来は、どんな世界なんだろう。
「ゼロじゃない限り、俺は諦めない。いつまでも、歌い続けていられるように」
私の瞳からは、堪えきれず涙が零れだした。─だけど、さっきまでの涙とは違う。
嬉しくて、暖かい涙だ。