明日も歌う あなたのために
「無茶な話だって、思ってるんでしょ?」
核心を突かれてハッと顔をあげると、湊くんはまた同じ笑顔を浮かべていた。
「分かってるよ。だから本当にやりたかったことは、自分の胸に仕舞ったよ。だからその位の悪あがきは、許して欲しいって思ってる」
「本当に………やりたかったこと?」
その質問に、湊くんは答えずに、
ただただ、また同じ顔で微笑んでいた。
「好きなものって、失いたくないよね」
やっぱりここは、陽当たりのいい病室だ。
全開になっていたカーテンの隙間から差し込む光が湊くんを照らして、その表情は逆光に隠されてしまった。
「命に変えても、奪われたくないって思うよね」
「湊くん………?」
「だけど命に変えられるほど俺は強くないし、それで人を泣かてしまうほど弱くもないんです」
湊くんの言っていることが、
湊くんの気持ちが、
私には分からなかった。
だけど、
忘れることだけが……出来なかった。