多分、姫。
――――――
―――……
彩子『貴方、こっち来てみて……』
健示『何だ?どうした?』
彩子に呼ばれ、聞き返したが『しーっ!!!』と怒られた為、何が何だかわからないまま反射的に謝る健示。
茶道の家元の肩書きも何処へやら。
やはり妻には敵わないよう。
彩子『ふふふ……見て。』
健示『ん?……ははは。』
彩子『疲れて寝ちゃってる。』
小声で話す健示と彩子の目の前には、スヤスヤ互いに寄り添い眠る4人の姿があった。
健示『いよいよ明日か、テストは。』
彩子『そうみたいね。
本当に奏ちゃん、頑張ってたものねぇ……ぜひ実ってほしいわ。』
いよいよ明日が決戦日という名のテスト。
この二週間ずっと勉強漬けだった奏とサポートし続けた3人をこの2人も陰ながら見守っていたのだ。
彩子『それにしても…見て、あれ。』
『あれ』と指を差したのは、彼らの息子・認。
彩子『あの子のあんな穏やかな顔、久々に見たわ……。』
健示『私もだ。アイツはいつもどこか気を張っていることが多いからな…。』
目の前に眠る息子の表情は本当に穏やかで安心しきった様子で、親の彼らでもあまり見ることの出来ない年相応のあどけない顔だった。
彩子『本当に…あの子にとって居心地がいいんでしょうね…。』
健示『そうだな。
本当に……奏さんに来てもらってよかった。』
彩子『えぇ、そうね。
ずっと……こんな時間が続けばいいわね。』
―――ずっとこんな時間が続けばいいわね。
静かな初夏の夜に願うことは、彼らの切実な願いだった。