愛を込めて極北
 「結局のところ、お金があるだけじゃ幸せになれるとは限らないってことじゃないのかな」


 確かにその通りなのだけど、


 「なんかもったいないですね。資産家の社長令嬢に見初められるなんて、そんな幸運なことないと思うんですが」


 楠木の場合、極地旅行というお金のかかりすぎる趣味というか仕事、生きがいを持っている。


 それを続けるためには、人一倍稼がなければならないところ、リブラン社社長令嬢の寵愛を受けることにより、十分すぎるほどにサポートが受けられる。


 ここまで恵まれているケース、あまりないだろう。


 「あ、そういえば」


 以前の響さんとの会話を思い出した。


 響さんがかつて、楠木に想いを寄せていたって。


 しかし楠木を救うことが不可能という現実が重すぎて、好きでい続けることができなくて、今の彼氏さんとの平和な恋愛に逃れてしまったって。


 「楠木さんを救うって、もしかしてあの副社長と別れさせるって意味だったのですか?」


 「……」


 コーヒーを飲み終えた後、


 「そう。できれば私が、蜘蛛の巣のような副社長の魔の手から、楠木さんを救ってあげたかった」


 響さんは打ち明けた。
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