愛を込めて極北
 「魔の手……?」


 蜘蛛の巣から救い出すって表現からして、もしかして楠木さんは副社長のことを……?


 「楠木さんって副社長からの寵愛を、迷惑に感じているんですか?」


 「……立場上、はっきりとは口に出せないけれど。重荷として受け止めていることは間違いない」


 「だったら婚約だとか、きっぱり断れば」


 そこまで口にしてから悟った。


 ……断れないんだ。


 断って、副社長のご機嫌を損ねでもしたら。


 愛娘を振った男の支援など、もはやリブラン社社長は全面停止するだろう。


 となると楠木はメインスポンサーを失い、今後の活動にも大きな影響が出るどころか、全ての計画を白紙撤回することになるはず。


 だから現状に甘んじている?


 気の進まない婚約話も、自分の夢の代償として受け入れている?


 「その通り」


 響さんがうなずいた。


 「だから……、嫌ならやめてほしいって言いたかった。でもできなかった。あの副社長ほど楠木さんを支える力もない分際で、無責任なことを口走ることはできなかった」
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