愛を込めて極北
 「でも、響さん」


 副社長みたいな権力や財力などなくても、そばで好きな人を支えることはできるんじゃないかと思った。


 ……でも一筋縄にはいかないだろう。


 極地への旅は、楠木の生きがい。


 その生きがいを奪う結果となりかねないので……響さんは行動に移すことをためらったのだろう。


 「……私には無理だったけど、もしかしたら美花ちゃんだったらどうにかなるかもしれないって思えるの」


 「えっ、どうしてですか」


 響さんの考えの根拠が分からない。


 響さんですらできなかったのに、どうして私が。


 「美花ちゃんとの出会いが、楠木さんを少しずつ変えつつあると思うし」


 「まさか。私にそんな力はありません」


 「……さっき副社長、明らかに美花ちゃんに宣戦布告してたよね」


 「えっ」


 気のせいだと思いたかったけれど、やはり周囲の人もそう勘付いていたようで。


 「何らかの危機感を覚えてるんじゃないのかな」


 「そんな。さっき初対面だったんですが」


 ……楠木とのあの夜のことは、響さんにも話していない。


 どんな波及効果があるか想像もつかないし、怖くてとても口にはできない。
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