愛を込めて極北
 「私のことは、全く相手にもしてなかったというか、気にも留めていなかった。なのに初対面の美花ちゃんに対して、どうしてきなり……」


 先日、楠木が東京に滞在中、副社長に会って私とのことをはっきり告げなくとも、ほのめかすような言動があったのかもしれない。


 それで副社長は楠木の「浮気」を疑い、消去法などからして私が相手だと断定したのかも?


 現時点ではあくまで憶測とはいえ……今後面倒なことに巻き込まれそうな予感がして、身震いした。


 一夜限りの関係を持ったとはいえ、正式に付き合ってるわけでもないし、今後に関して何らかの約束を取り付けてるわけでもない。


 まさに一度きりのことなのに、相手の婚約者から目をつけられている可能性が。


 結果的には浮気になるのかもしれないけれど、あの夜の時点では、私は副社長の存在すら知らなかったのに……。


 楠木に文句を言ってやりたいところだけど、今さらどうにもならないし……。


 「今週末は、美花ちゃん事務所当番だったっけ?」


 「はい、日曜日に……」


 「日曜日にはもう、東京に戻ってくれていればいいけどね。まだ居残っていたりしたら最悪!」
< 109 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop