愛を込めて極北
 その香りを辺り一面に振りまき、あでやかに咲き誇るカサブランカの花のような、圧倒的な存在感。


 名は体を表すという言葉通り、黙っていてもこちらが屈服を余儀なくされるほどの美貌とカリスマ性を備えた副社長に対し、私は手も足も出ない。


 「暁がこの前東京に来た時、どうも様子が変だったのよね」


 この前はまとめていたその髪を、寝起きの今はなびかせている。


 依然として艶やかさが保たれたままの、綺麗な長い髪……。


 その髪を不機嫌そうにかき上げる。


 愛しの「婚約者」が事務所でボランティアを務めてる女と「浮気」をしたという事実を把握して、内心怒り狂っているのだろう……。


 「仕事柄なかなか東京を離れられないし、一緒に過ごせる時間も限られているから、こういう騒動が起きるのは想定内」


 怒りというよりも、余裕の表情を副社長は見せていた。


 「だけど想定内なのは、相手はどんな女かと思いきや、まさかあなたのような若僧だったとは」


 若僧?


 若僧って私のこと?


 20代とはいえ、四捨五入したら30の私が、若僧?


 十歳近く年上の副社長からしたら、私は若僧なのかもしれないけど。


 ていうか若僧って若者や未熟者を見下していう表現だけど、普通男性に対して用いるのでは?
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