愛を込めて極北
 「暁が旅に出て無事に戻ってくるまで、私はいつも心配でたまらないの。だから日本にいる時くらいは、安心させて」


 「百合」


 「出来る限りそばにいて」


 「……百合にはリブラン社での仕事が山積だろ。俺も今後の活動PRのためにもマスメディアに、」


 「一緒にいられる時だけでいいの。一緒にいられる時は、二人だけで……」


 このままここにいては、よくないことは重々承知だった。


 二人が愛を語るシーンを鑑賞などしたくない。


 ていうか今の私、まるで覗き魔?


 一歩間違えればストーカー行為?


 見つかったら大変気まずいのは間違いないけれど、今逃げ出したら気配や物音で絶対に見つかってしまうので、動き出せずにいた。


 幸い辺りはだいぶ暗くなっているため、そばにあった木の幹の陰にいれば気付かれないだろう。


 「……だからキスして」


 「百合、そんな」


 楠木は周囲を気にする素振りを見せる。


 「誰もいないし、誰かに見られたらまずいとでも言うの? 私たち、誰にも気兼ねする必要のない婚約者同士なのに」


 「……」


 「そばにいる時くらい、私を安心感で満たしてってさっき言ったばかりなのに……」


 そして百合さんのほうから、楠木に唇を重ねた。
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