愛を込めて極北
 「あ、」


 「……さっき速達が来たので、お届けに」


 電話を終えた楠木が私に気が付いたので、封筒を渡した。


 「いつの間にか寝ちゃってたんだな。やはり英文を長時間読むのはキツイな。学生時代を思い出す」


 「何を読んでいたのですか」


 つい尋ねてしまった。


 先ほどまで楠木が突っ伏して居眠りしていたテーブルの上には、英文の書籍をコピーしたような紙がたくさんあった。


 「これは、フランクリン隊の副艦長を務めていた士官が、故郷の幼なじみに宛てた書簡をまとめたものだ」


 「書簡?」


 「そう。イングランドを出港してから、グリーンランドに寄港した時のことまで手紙が残っている。現地から原本のコピーを送ってもらって、今読んでるんだ」


 ……フランクリン探検隊は1845年5月15日の午前10時頃、ロンドンを流れるテムズ川河口のグリーンハイスから出向した。


 ヨーロッパから北米大陸北部の北極海を通過し、アジアへと抜ける北西航路を確立させるために。


 「グリーンハイスの港を、観衆の祝福を受けながら出発して、ブリテン島に沿って北上してスコットランドに到達。スコットランド北部のオークニー諸島にて停泊した後、北大西洋へ。アイスランド南部を通過し、一路グリーンランドへ」


 楠木の話を聞きながら、壁に張られた世界地図を目で追って、それら地名の位置関係を把握する。


 それだけで私も一緒に航海しているような気分になる。
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