愛を込めて極北
 「副艦長の地位にあったその士官は連日、まるで日記を書くかのように故郷の幼なじみに手紙を残していた。彼にとってはそれが初めての極地探検。まるで遠足に出かける子供のように、時にははしゃいでペンを走らせていた様子が目に浮かぶ」


 船のデッキに佇んで目にした氷山や、クジラの群れなどを興味津々に書き残した。


 手紙の束はグリーンランドの港で停泊した際に、英国に引き返す護送船に預けて幼なじみに届けられた。


 「少なくともその時点までは、探検が成功することは疑いなしで、乗組員たちもテンションが高い状態で船は目的地へと進んでいた。できることならその後の日々の手紙も書き残され、何らかの方法で現存していればよかったのに……」


 その後悲劇へと向かって、一直線に進んでいく探検隊。


 彼らの身にどのようなことが起こったのか、現在でも正確には知られていない。


 「その人だったら、それから起こった悲劇の数々をどんな風に書き残していたんでしょうね……」


 再び壁の地図を眺めた。


 イギリス、スコットランド、アイスランド、グリーンランド。


 大西洋を船で横断する旅。


 現在ならイギリスからアメリカ大陸には、飛行機でひとっ飛びするのが一般的だろう。


 しかしこの当時は船しかない。


 時速7キロ程度のフランクリン探検隊の戦艦が、当時としては超高速な移動手段だったのだ。
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