愛を込めて極北
 この気持ちを知ってしまった以上、もうここにいるべきではないので、私は今の業務が一段落したらここを辞めることにした。


 抵抗感を覚えつつも、百合さんの支配下に甘んじざるを得ない楠木を見ているのはつらい。


 たとえそれが義務や奉仕だとしても、楠木は百合さんの愛に報いなければならないのだから……。


 夢を実現し続けるためには。


 「そうそう、ブログ機能を利用して、このフィッツジェームズ大佐の書簡を和訳して、日記形式で時系列順にアップしてもらえないか」


 フランクリンの部下であり、イングランドを出港しグリーンランドに立ち寄るまでの間事細かに記録を残したフィッツジェームズ大佐の書簡を和訳し、そしてブログにアップという次の作業。


 興味深くはあるものの……。


 「あの、楠木さん」


 「別に締め切りがあるわけではないから、ゆっくりで構わない。できれば俺が出発する前に出来上がっていればありがたいところだけど」


 「すみません。私今月いっぱいでここを辞めさせていただこうかと」


 当初の予定では、楠木が極北の地へ旅立ってから、ひっそりと消えるつもりだった。


 だけどこの調子で次から次へと予定を与えられ続け、逃げるタイミングを失ってしまいそうなので先に告げておくことにした。
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