愛を込めて極北
 ……スムーズに仕事を終え、定時に退社。


 寄り道をせず早く帰って、それから準備をして出かけよう。


 今日はテニスサークルの練習日だ。


 最近日曜日は楠木の事務所によく通っていたため、主に日曜日に開催される試合出場にもご無沙汰していた。


 それゆえ練習も若干熱が入っていなかったけれど、心機一転これからは大会出場そして上位進出目指して頑張ることにしよう。


 かつてはそれが当たり前だったのだけど、今年に入ってからは楠木関連のほうが優先順位が上回っていた。


 それが消滅した今、優先順位ランキング最上位に位置するのは、再びテニスとなる。


 練習を頑張って、再び以前のように大会上位進出常連選手として活躍……。


 これからの未来図を頭の中に描いているうちに、自宅にたどり着いた。


 「ただいま」


 鍵を開けて玄関に入る。


 ふと、家族のものではない、男性用の靴が目に入る。


 来客……?


 母が在宅中であり、郵便局の人でも訪ねてきたのだろうと、大して気にも留めていなかった。


 居間から母の笑い声が聞こえてくる。


 「こんにちわ」


 郵便局の担当のおじさんとは顔見知りなので、挨拶だけでもしておこうと、居間のドアを開けた。


 すると……。


 「お邪魔しています」


 そこにいたのは……。


 「楠木さん……?」
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