愛を込めて極北
 ただ、本心は……。


 どんな素敵な人といいムードになっても、私が承諾の素振りを見せないのは。


 ……楠木ほど個性的な人はいないから?


 最近出会った人は誰も彼も、優しくて知的で立派な仕事を持っていて、容姿も普通以上で申し分のない人ばかり。


 なのにその中の誰にも、私は本気になれない。


 こんなことを言っては贅沢だし、思い上がってると言われるのは重々承知だけど……刺激が足りない。


 楠木に出会ってしまったから?

 
 よく言えば個性派、悪く言えばクレイジーなくらいの奔放さで、私を振り回す人はいないから?


 「……」


 振り回されるのには、つくづく疲れ果てていたはずなのに。


 もしかして私、まだ楠木に未練が……。


 その夜、友人知人のFacebookをチェックするためにパソコンを開いた。


 「!」


 ホームにアクセスすると、楠木暁のFacebookページが……。


 投稿によると、成田からカナダへと出発したようだ。


 実際に文章を書き写真を投稿しているのはスタッフの誰かなんだけど、楠木がリブラン社の最新作に身を包み、空港内でスタッフに別れを告げている画像がアップされていた。
< 179 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop