愛を込めて極北
 それからしばらく現況報告などが続き、私が最後に東さんに会ったのは大学二年の夏休みに、工房にお中元配送の際アルバイトに出向いた時だったことが判明。


 「もうかなり前になりますね」


 「だよね。あの頃子守してもらったうちの子、来春からもう中学生だから」


 「そんなに経つんですねー」


 当時のバイト時の苦労話などを少しした後、不意にあの極北研究家のことを思い出した。


 「そうだ東さん。Facebookの友達欄に、北極圏で写真撮ったり本を書いたりしている、楠木暁さんの名前を見つけたんですが」


 「ん? 楠木ね。友達というか、依頼人というか」


 「依頼人?」


 「極地に持って行けるような商品開発を頼まれたんだ。ご近所付き合いのよしみで、特別にOKしたんだけど」


 工房には新製品開発に向けて、研究室みたいなものも隣接している。


 「楠木さんって、東さんのご近所にお住いなんですか」


 「近所も近所、隣人なんだけどね」


 「えっ」


 隣とは言っても、お互いに敷地の広い自宅兼作業場を所有しているゆえ、都会みたいに家の中まで覗けるようなご近所さんとはスケールが違った。
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