愛を込めて極北
 いわゆる「ジューンブライド」。


 事務所ではラフな格好をしていることの多かった響さんの、ウェディングドレス姿はとても綺麗だった。


 旦那様はイケメンっていうわけではないけれど、真面目そうで優しそうな人。


 かつて響さんが打ち明けてくれたのを思い出した。


 以前は楠木に憧れていたこともあったけれど、楠木のあまりのクレイジーぶりについて行けず、いつしか平凡な幸せを求めるようになったと。


 結局楠木には打ち明けることもなく、自然鎮火した想いではあったものの、後悔はしていないと。


 なぜならば……旦那様となったこの人といつまでも一緒に歩んでいきたいと、心の底から祈ることができるから。


 とても綺麗な花嫁姿の響さんは、式場内全体に幸せをもたらすかのよう。


 私ももしも誰かと結婚して、ウェディングドレスを着ることができたなら、あんな風になりたいと強く願った。


 幸せな花嫁に。


 幸せ……?


 私の幸せってどんな形のものなのか、ふと考える。


 幸せな家庭を築く。


 誰かと。


 私の周囲にいる、様々な男性の顔が浮かんでは消える。


 手を伸ばせば、チャンスはいくつかあるはずだけれど……。
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