愛を込めて極北
 「……」


 何かが違う。


 平凡な幸せが、どこか別世界のもののようにさえ思える。


 ごちゃごちゃした毎日の中で、個性的を通り越してクレイジーの領域とも言える男に、日々振り回されるほうがよかったとでも……?


 何とも言えない。


 しかもその男には、私以外に切っても切れない間柄の女性がいて、その人との間にすでに子供が……。


 このまま結婚する運びとなるのは、時間の問題だろう。


 子供ができた以上、略奪だとか家庭崩壊とかそこまではしたくなくて、逃げ出すように身を引いたのに……。


 未だにあれこれ考えて胸が痛むのは、未練があるから……?


 「美花ちゃん、今日は本当にありがとう」


 式場から退出する際、新郎新婦たちに挨拶をするのだけど、花嫁の響さんに声を掛けられてようやく現実へと引き戻された。


 お色直しをしてカラフルなドレス姿の響さんが、出席者一人一人に声を掛けている。


 いつしか私の順番になっていた。


 「これを持って行って。絶対に美花ちゃんの願いが叶うアイテムだから」


 紙袋に入れられたそれは……花嫁のブーケだ。


 密かに私のために用意してくれていたようだ。


 「いずれきっと、美花ちゃんにとって一番の未来が訪れるから」
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