愛を込めて極北
 「響さん……」


 その言葉がどういった意味を持つのか、詳しく聞き返したかったところだけど。


 私の横には、帰りがけの出席者がたくさん列を成しており、この場での長話は憚られた。


 「これからも、お幸せに……」


 新郎にも一礼し、会場を後にした。


 二次会には参加せず、そのまま地下鉄で帰宅。


 着席し、ようやく一人ゆっくり考え事ができる時間が訪れる。


 ……楠木への想いを自覚してから、耐え切れずに響さんに相談したことがあった。


 最初は隠していたつもりだったけど、結局のところバレバレで、隠していた意味が全くなかった。


 そんな響さんに、百合さんの妊娠を告げた時はさすがに驚愕していた。


 「どうしてそんな……!」


 楠木は、一般人よりは危険を伴う活動をしており、活動を続けるためには集中を損なわないよう、家族を持つことに否定的な発言を繰り返していたのは、響さんも十分知っている。


 だから楠木はやむを得ず馴れ合いの関係を続けたとしても、それはあくまでリブラン社の資金が目当てのことであり、子供を作って結婚に至るなどと予想だにしていなかった……。
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