愛を込めて極北
 もし百合さんの妊娠が嘘、つまり何かの間違いだったとしたら。


 現実を受け入れていなかった楠木は、きっと私に何らかの方法で連絡を入れてきたはず。


 私の携帯では、楠木からの連絡は全て着信拒否・受信拒否設定してあるけれど、やろうと思えば東社長を利用したり、以前のように自宅に襲撃だって可能なはず。


 それがないということは、百合さんの妊娠は否定しようがない事実だったのだろう。


 楠木もついに現実を受け入れ、百合さんとの結婚に甘んじたのだろう。


 じゃなければただでは済まされないのだし。


 全てを穏便に済ませるためには、楠木は百合さんと結婚し、家庭を築く必要がある。


 そうすればこれからも、リブラン社からの支援は約束され、楠木のこれからの活動も保証されるし。


 何の申し分のない綺麗な奥さんを手に入れ、いずれは二人によく似たかわいい子供も……。


 「次は終点……」


 地下鉄のアナウンスで私は我に返った。


 もうすぐ終点駅で下車だ。


 響さんにいただいたブーケ、忘れないようにしなくては。
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