愛を込めて極北
 「北海道在住とは聞いていましたが、まさかこんな近くとは意外でした。こっちに移住したのは、寒冷地の気候に慣れるためなんでしょうか」


 「それだけが目的なら、冬場はもっともっと寒くなる内陸部とか北部に住まいを構えるはずだし、きっと新千歳空港(しんちとせくうこう)に近いからっていうのがあると思うよ。結構東京と行き来してるから」


 新製品の話から、極地研究家の話題が少し続いて、


 「もし美花ちゃんがあいつに興味あるなら、近いうちに一席設けてもいいけど。たまに一緒に食事に出かけたりするんだよね」


 「いえ、そこまでは……」


 遠い存在だと思っていた得体の知れない人が、案外近い場所に存在していたのには驚いたものの、今以上お近づきになろうとは特に考えてもいなかったため。


 この時は東さんからのオファーを、あっさり断ってしまったのだった。


 東さんも冗談半分で、真剣にプランを立てていたわけでもなかったし。
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