愛を込めて極北
 配布資料に目を通しているうちに、イベント開始時間が訪れてしまった。


 程なく本日の主役が登場。


 山登り最中にでも立ち寄ったような服装で、ステージに上がってマイクを手にする。


 聞くところによると、今着用しているものは全て、スポンサーとなっているアウトドア用品メーカーからの提供らしい。


 このメーカーとの契約により、極北を歩き回る際の防寒具は十分に揃い、PRのために今日のような講演会の際も着用して臨むこともあるという。


 「……今日はこの場にお越しいただき、まことにありがとうございます」


 来場者に挨拶をしてから、まず自己紹介をかねて、今までの経歴のようなものを語り始めた。


 小中学生の参加者が多いため、分かりやすいよう明瞭に語っている。


 ……一人っ子で両親が共働きだったため、一人で近所の公園などで遊ぶのは好きだったものの。


 散歩のレベルを超えた耐久遠足や、千メートル級以上の登山などはあまり好きではなく、冬山登山に誘われても真っ先に断ったりしたなど。


 こうして毎年のように極北の地に旅を繰り返すようになった自分が、今でも信じられないことがある、と。
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