愛を込めて極北
 「でも、まあ。北極圏を旅する際は、チョコレートは必需品なんだよね。普通のチョコじゃなくて、もっと密度の濃い、糖分過多なチョコレート。寒冷地ではカロリー消費量が多くなるから、小さくて高カロリーな食材が必要不可欠で」


 極地では、一日のカロリー量やらダイエットやらを気に掛ける前に。


 十分すぎるカロリーを摂取しないと、命にかかわる問題となる。


 とはいえ大量に食材を持ち込んでも邪魔になるので。


 少量で高カロリーな特製チョコレートなどが望ましいらしい。


 「そういえば登山の際も、チョコレートを持参したほうがいいってよく言われますね。夏場は溶けやすいのが問題ですが」


 「そうなんです。だから出発前に自分で特製の高密度チョコレートを製作し、旅に持参するんですよ」


 そして楠木は私のチョコレートを一片ちぎり取り、そのままぱくっと口にした。


 「……これはいい! 携帯用に理想的な密度と味わいだ!」


 見るからに失敗作でまずそうなチョコレートを、仰々しく美味しそうに味わっている。


 「このチョコ、次回の遠征時には是非大量製作したい。レシピ教えてもらえませんか」


 「え……。自分でもどうやったらこうなったか分からないんですが……」


 周りの人たちは大笑いしていたものの、楠木本人はいたって真面目な表情でこのチョコのレシピを私に求めてきた。
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