愛を込めて極北
 「参加するには、今から貯金しておかなくちゃ……ですね」


 観光地として名高い地域だったら、ツアーがたくさんあり、値下げ合戦などが活性化され国内よりも安く行ける場所もたくさんある。


 しかし北極圏はそうはいかない。


 アラスカ観光やイエローナイフでのオーロラ観光などはいくつか耳にするけれど……楠木がよく出向いているカナダ北部極北諸島へとツアーなんて、まず存在しないかと……。


 「でも、北極海を西へと進む、例の北西航路をたどるクルージングはいくつかあるんですよ。ただしツアー本体だけで百万近くかかりますし、敷居が高いツアーばかりですが」


 さすがに気楽に参加できる次元ではない。


 ツアーの出発地に、成田からいくつも航空機を乗り継いでいく段階で、すでにかなりのお金を要するし。


 「もっと日本国内のスポンサーに働きかけて、賛同者をたくさん参加させてあげたいんですけどね」


 いくら星が輝いているとはいえ、夜空の下。


 「スポンサー」という単語を口にした際、楠木の表情に影が差したことに私はその時気付くはずもなかった。
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