愛を込めて極北
 楠木のオフィスは、汚いわけではないけれど、書籍や書類がたくさんあるため雑然としている。


 なぜか四つあるデスクの上には全てパソコンと外部取り付けハードディスク。


 ファックスと本棚により壁は隠され、露出したわずかな面に地図や地形図、海面図などがスペースを埋め尽くすようにあちこち貼られている。


 そしてアナログな黒板が一つ。


 壁に掲げられた黒板は月間予定表で、あらかじめ刻印された日付の欄に、その日の予定が細かく記されている。


 ちなみに今日は、札幌市内でミーティングがあるらしい。


 そして下旬には「東京」と書かれており、その後月末までずっと矢印が伸びていた。


 極地研究家・楠木暁の最大のスポンサーは東京のアウトドア用品のメーカーであり、その絡みでしばらく都内に滞在するとのこと。


 一攫千金ってわけではない楠木の活動には、資金を提供してくれる大口スポンサーは必要不可欠。


 だがそれに話が及ぶと、いつも楠木は憂鬱そうな表情を見せる。


 「スポンサー集めって、大変そうですね」


 ファックス送信が一段落した響さんに話しかけた。
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