愛を込めて極北
 楠木は、一言で表すとかなり変わった人だった。


 よく言えば個性派、悪く言えば……変人かも。


 「あの人クレイジーだから」とか言われたりもしているようだけど、当人にはクレイジーという形容詞をむしろ誉め言葉に感じているようで、喜んでいるようにさえ見える。


 講演会やイベントでは、いい面しか見られないのだけど。


 自宅兼事務所に出入りするようになって、頻繁に間近で接するようになると……。


 不思議と言うか、私には理解不能な面も少なくない。


 この日は珍しく週末にもかかわらず、事務所に滞在中。


 私用デスクに座り、しばらく地図を眺めていた。


 まずはカナダ極北諸島、キングウィリアム島周辺の地形図。


 軍事機密上の問題もあり、日本では外国のここまで詳細な地図は入手不可能かもしれない。


 おそらく現地で調達してきたのだろう。


 標高や海の深さが等高線で表されているが、1メートル刻みなのか四方八方線だらけで目が回りそうな地図。


 そんな視力が悪化しそうな地図を、楠木は黙って数十分も眺め続けていた。
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