愛しの残念眼鏡王子
居たたまれなくなり、逃げるように事務所を後にした。


季節は春。

けれどまだ少しだけ夜になると、肌寒い。

夜風が吹くと特に。

丈の長いスプリングコートの襟を立て、敷地内から出て行く。


都会と違って近くに駅ビルや飲食店などなく、畑が広がっている。

少し歩くと商店街があり、その商店街を抜けると私が住む一戸建ての賃貸アパートがある。


「本当に田舎……」

街灯の下を歩きながら、ポツリと漏れてしまった声。


初めてこの地を訪れた時は、あまりに都会との差がありすぎて、軽くカルチャーショックを受けたほどだ。

けれど住めば都なんてことわざがある通り、住み始めてみると意外と住みやすかったりする。


確かに田舎だけど、商店街ですべて揃ってしまうし、交通の便も良い。電車やバスはもちろん、高速も繋がっているし。

なにより都会と比べて物件が安い。
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