愛しの残念眼鏡王子
思わず目を見開いてしまう。

いつも頼りなくて、話す時はどこか弱腰で遠慮がちで。

それなのにどうして今は、こんなにも力強い声で言うのかな?


「こうやって香川さんと出会えたのも、なにかの縁だと思うし! あっ、なんならお兄ちゃんだって思ってくれても……!」

両手拳をギュッと握りしめて力説専務の姿に、堪らず笑ってしまった。


すると専務もつられるように笑い出す。

「やっぱこんな頼りないお兄ちゃんは、嫌だよね」なんて言いながら。


ううん、違うの専務。

私が笑ってしまったのは、可笑しかったからじゃない。――嬉しかったから。


専務の言葉が嬉しかったの。

けれど優しくされると辛い。


もう二度と辛いを思いをしたくないから、東京から逃げてきたの。

もう二度と恋をしたくないの。悲しい思いをしたくないから。


だから辛い。
優しくされてしまうと、甘えてしまいたくなりそうだから。

また恋をして、辛い思いをしてしまいそうだから……。
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