愛しの残念眼鏡王子

本気で掴めるとは思っていないけれど、一瞬でも掴めるかもしれないと思ってしまった自分に、苦笑いしてしまう。

「なにやっているんだろう、私……」


そっと手を振り落とし、ポツリと声を漏らしてしまう。

鼻を鳴らしてすり寄ってきたユウの頭を、優しく撫でていく。


「ごめんね、いつもの私らしくないよね……」

なにもかも嫌になって、逃げるようにここへやって来た。


最初はどこでもよかった。

私のことなんて誰ひとり知らない土地なら。

ユウと一緒に住めて、生活に困らないほどのお給料がもらえれば。


そう思ってたまたま目に入ったこの場所に引っ越してきて、職安で見つけた事務職募集の求人に応募しただけ。


ここでユウと一緒に、幸せに暮らせればそれだけで充分だった。

それなのに……な。


元の職場とは違い、勤め先は温かくてみんな優しくて、まるで家族のように接してくれる。