愛しの残念眼鏡王子
そう言うと専務は、ゆっくりとこちらを向いた。

「気が張っていて、専務として、跡取りとして頑張らないとって。……でも、気張れば気張るほど失敗ばかりでさ」


どこか懐かしむ横顔に、視線が釘付けになってしまう。

しゃがみ込んだままの体勢がきつくなり、ゆっくりと芝生に腰を下ろし、専務の話に耳を傾けた。


「おまけにほら、俺ってこんなでしょ? 普通にしていてもよく失敗するから、もうこっちに来たばかりの頃は、笑えないほど使い物にならなかったんだ」


初めて聞く専務の話に私は相槌を打つ。


「でもこっちに来て一ヵ月が経った頃、仕事中に父さんにここに連れて来られたんだ。そしていきなり横になれって言われてさ」

当時のことを思い出しているのか、喉元を鳴らして笑う専務。


「お前は無駄に力が入りすぎだって言われたんだ。……言われるがまま横になって、今日みたいな青空を眺めていたら、良い意味で自然と身体の力が抜けたんだよね」

専務の話を聞いていて、社長らしいなと思ってしまった。

専務のお父さんである社長は、口数は少ないけどいつも周囲のことを見てくれている人だと思うから。
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