愛しの残念眼鏡王子
専務の話にドキッとしてしまう。
専務の言っていることは当たっているから。

私は逃げてきた。
向こうでの暮らしが辛くて。


もしかして、専務もなの? 専務もなにか辛いことがあって……?

そんな私の思いを感じ取ったのか、専務は空を見上げたまま言った。


「俺もここに来た時は辛い時期だった。……いや、正直に言うと、ここに来てから辛いことの連続だったのかもしれない」

「なにがあったんですか?」喉元まで出かかった言葉を、グッと飲み込む。


誰だって触れて欲しくない過去はあるはず。
私だってそうだ。


専務は聞かないでくれた。……そんな専務に私が聞けるはずがない。

私は口を挟むことなく、耳を傾けた。


「でもそのたびに、天気の良い日にこうやって横になって空を見上げると、気持ちが軽くなるんだ。……大丈夫、まだ頑張れるって思える」


空に向かって微笑む姿に、胸がギュッと締め付けられる。

そして気づいてしまった。

自分の気持ちに。


素直に専務の横顔を見て、“好きだな”って感じてしまったから。
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