愛しの残念眼鏡王子
たちまち彼の手が背中や髪に触れるたびに、心臓は飛び跳ねていき、ますます顔に熱が集中してしまう。


専務は善意でやってくれているだけ! そう分かっているのに、意識してしまえばしまうほどドキドキは加速していく。

「よし、完璧に取れた」

「ありがとうございました」


今の自分の顔を見られたくなくて、急いで立ち上がった。

そしてなんとか必死に熱を冷ましていく。

すると専務も立ち上がり両手を上げ、グンと身体を伸ばし始めた。


「俺もそろそろ行かないと。……ありがとう、付き合ってくれて」

頼りない笑顔を向けられ、気恥ずかしくなる。


「こちらこそありがとうございます。……ずっとここで横になってみたかったので、夢が叶ってよかったです」

素直な気持ちを伝えていくと、彼は驚くほど目を丸くさせ顔を綻ばせた。


「本当? ならよかった~! 嫌々だったかもしれないって内心ドキドキしていたんだ。少しは俺、香川さんの役に立てたかな?」


後頭部を掻きながら笑う専務に、心の中は大きく乱されてばかり。


働き始めてから何度も救われてきました、専務の笑顔に。

そう胸の中で囁き、頷いた。
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