愛しの残念眼鏡王子
聞いてきた彼に首を横に振ると、また一生懸命取ろうとするものの……やっぱり取れていない。

「違います、専務こっちです」


堪らず手を伸ばし、彼の髪に触れて取った瞬間、専務はオーバーに後ろに後退りした。

その様子に私は取った芝生を手にしたまま、目を瞬かせてしまう。

すると専務は必死に平静を装い始めた。


「ごっ、ごめん! 急に取り乱したりしちゃって!! えっと、その……! 営業いってきます!」

声高らかに宣言すると、専務は私を残してひた走っていく。


そんな彼の背中を私は呆然と見つめてしまっていた。


専務のことが好き。

気づいてしまった自分の気持ち。


けれど専務にとって私はただの部下。

だから優しくしてくれているだけだろうし、さっき話していたように、自分と同じ境遇かもしれない私のことを、気に掛けてくれているだけだと思っていたけど……。
< 49 / 111 >

この作品をシェア

pagetop