愛しの残念眼鏡王子
突然聞こえてきた声に、私と松田さんは同時に声がした方を見てしまう。

するとそこには、専務の姿があった。

きっと専務は手伝いに来てくれたに違いない。

けれど、なんてバッドタイミングだろうか。

案の定松田さんは素早く私から離れ、専務の元へ一目散。


「専務、ちょうどいいところへ。私、ちょっと副社長に用事があるから、光希ちゃんとふたりでお茶の準備、お願いしてもいいかしら?」

「え、えぇ。そのつもりで来たのでかまいませんけど……」


状況が飲み込めず困惑する専務に、松田さんは妙に“ふたりで”のところに、力を入れた。

もう本当に勘弁してほしい。


「悪いわね、助かる。じゃあよろしくね」

そう言うと松田さんは、『さっさと邪魔者は退散します』と言うように、慌ただしく事務所から出て行ってしまった。


あっという間にふたりっきりにされてしまった私と専務。

「変な松田さんだね」
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