愛しの残念眼鏡王子
鈍い専務は、からかわれていたことに気づいていない様子で、松田さんが出ていった事務所のドアの方を見ながら、私の隣までやって来た。


好きな人が隣にいる。
それだけで私の心臓は忙しなく動き出す。

さっき松田さんにからかわれたから余計に。


「えっと、どこまで終わったのかな?」

「あ、すみません。じゃあお菓子の準備をお願いしてもいいですか?」


そんな私の事情を知らない専務は、平常運転。
慌てて取り繕い、平静を保った。


「分かったよ。今日は甘いものが食べたい気分だから、チョコ多めでもいいかな?」

「いいと思います」


こうやってお茶を共にするようになって、分かったことがいくつかある。

専務は男の人には珍しく、けっこうな甘党だってこと。

特にチョコレートが大好きなようだ。

それと猫舌で、なかなか熱々のお茶には手をつけられないんだよね。


本音を言えば、冷たい麦茶とかが飲みたいらしいけど、なんせ従業員の平均年齢は高め。
どうしても熱いお茶を好む人が多い。
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